生きていれば、誰しも必ず失敗をしてしまうものです。
とはいえ、失敗はしたくないですよね。
でも、失敗ってどうしてそんなに嫌なのでしょうか。
怒られるから?恥ずかしいから?
この本を読めば、失敗とは何なのか学べると思います。
失敗の科学
「失敗の科学」、失敗を科学するとはどういうことなのでしょうか。
タイトルから見て、よくあるビジネス書のような感覚で読み出しましたが、本当にあった事例をもとに解説されていて、小説を読んでいるような感覚で読み進められます。
少しずつではありますが、各章を紹介していきたいと思います。
各章の見出しも、興味深いものばかりです。
第1章 失敗のマネジメント
それほど難しい手術ではないのに、ベテランの医師が手術中のトラブルに翻弄されてしまうという内容で始まります。
続けて、ベテランパイロットの判断ミスによる航空機の墜落事故の実例が続きます。
「医療業界」と「航空業界」、どちらも人の命を預かる業界として、対比をしています。
航空機には、墜落しても壊れない「ブラックボックス」というものが設置されているのは、知っている人も多いと思います。
その中にテープレコーダーが入っており、コックピット内の様子が常に録音されるようになっていて、事故が起きてしまった場合に原因と対応の過程を調べることが可能です。
航空業界全体での取り組みとなっていて、同じミスが出ないように、検証結果が世界中に報告されます。
それに対し医療業界は、医療過誤を起こした現場に居合わせた人から、直接話が聞ける状態であるにもかかわらず、ベテラン医師のミスを報告できず、同じことが行えない状態にあります。
なぜそういうことになってしまったのか、そこに対する視点や忖度で起きる事象など、組織の文化の違いを解説しています。
医療業界では失敗を恐れ、さまざまな方法で隠蔽し、失敗から学ぶ機会を潰してしまっているのが現状です。
第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
この章では、「なぜ人が失敗から学ぶことは困難なのか。」に注目して、司法やカルト集団の事例を挙げています。
司法では、誤判は許されない。ですが、実際に起きた誤判は数多くあります。
DNA鑑定の発見によって、非常に細かな判断ができるようになったのですが、DNA鑑定で無罪となっても有罪と言い張り、あり得ない言い訳をする検事などもいるようです。
あるカルト集団では、教祖が「世界が水没する」と予言したが、予言の当日に何も起こらなかった。
しかし、団員は予言がはずれたことに対し「解釈」を変えてしまい、「私たちの信神深さに、神は世界に第2のチャンスをくれたのだ。」と言い出す人も出てきてしまいます。
これは、「間違いを隠すのではなく信じ込んでしまう。」という現象に取り込まれてしまっています。
当事者は本気で思い込んでいて、自分が間違ってしまっていることに気がついていないので、解決が難しい状態に落ち入っています。
第3章 「単純化の罠」から脱出せよ
第3章では、多くの事例が紹介されています。
ある陶芸クラスの実験でグループを2つに分け、Aグループには「量」で、Bグループには「質」で評価すると告げられました。
結果は、質を追求したはずのBグループではなく、量を追求したAグループから最も質の高い作品ができたのです。
Aグループは、作品を作りながら試行錯誤を重ねたことに加え、何度も作っていくうちに、粘土の扱いもうまくなっていきました。
「失敗を重ねた結果とも言えます。」
この実験の他にも、「スケアード・ストレート」という、犯罪抑止プログラムにも触れています。
ここは興味深い内容なので、実際に本書で読んでもらいたい内容です。
第4章 難問はまず切り刻め
この章では、「小さな改善(マージナル・ゲイン)」について解説しています。
この小さな改善を利用した、イギリスのプロ自転車ロードレースチームでの「偉業」が語られています。
最近では、「マージナル・ゲイン」いうアプローチは、スポーツ以外の分野でも注目を浴びていて、ビジネスや軍隊でも参考にされるようになってきているようです。
例として、アフリカへの援助の問題や、大食い競争に使われた実績などを挙げています。
第5章 「犯人探し」バイアスとの闘い
何かミスが起こったときに、真っ先に避難が始まる場所では、誰でもミスを隠したくなります。
「失敗は学習のチャンス」と捉えることができれば、2つのチャンスがもたらされます。
何が起こったのかを調査して「失敗から学ぶチャンス」と「失敗にオープンな組織文化を構築するチャンス」の2つです。
この章の事例は非常に難しく、悪い偶然が重なって起こった出来事の事例が掲載されています。
その中の1つ、「リビアン・アラブ航空114便」の事故では、「民間機側」と「戦闘機側」の立場に立っって書かれています。
事後の調査をしっかりと行ったことで見えてきた状況は、複雑なものでした。
ですが、犯人探しを追求するのではなく、「失敗から学ぶ」という航空業界の姿勢が、この複雑な事故の真相を突き止めるに至りました。
とはいえ、この航空業界でも「非難」という誘惑に負けてしまった事例もあり、この章の最後に記載されています。
第6章 究極の成果をもたらすマインドセット
自分の才能は生まれ持ったもので、変えることができないと考える「固定マインドセット」と知性も才能も、努力すれば伸びると考える「成長マインドセット」という二つの考え方をあげています。
「マインドセット」の著者である、心理学者の「キャロル・ドゥエック」の行った実験で、才能はさほど変わらないのに、マインドセットが違うために結果が大きく変わってしまうということが証明されています。
この章の最後に、「日本人は起業家が少ない」という調査の結果があり、「企業に関連するスキルは自分で伸ばすことができる」と考える傾向が、一番少なかったのは日本人だった。と締めくくられています。
「マインドセット」は、別の記事に書いていますので、興味があったらこちらの記事も読んでみてください。
終章 失敗と人類の進化
歴史を見てみると、世界の文化では神話・宗教・迷信など独自の世界観が存在する。
こうした観念や思想は神聖化されて、意を唱えるものには重い刑罰が与えたれた。
時の権力者たちは、自分たちの思想が間違っていないという証拠に向き合おうとはしなかった。
この時代でも、間違いはよくない事と考えられている部分が多いと思います。
今必要なのは、失敗に対する考え方に革命を起こす事だと力強く語っています。
具体的にどうしていけばいいか、3つの質問があるので、もしこの本を読んだら答えてみてください。
その質問の後に、どうしたらいいかが書かれて締めくくられています。
まとめ
「失敗は悪」という考え方は、昔から根強く残っていると思います。
最近では一つの失敗を突き詰めて考え、同じミスが出ないように改善している、トヨタのような企業も増えてきているようですが、まだまだ失敗を報告するというのは、難しい部分もあるかもしれません。
でも、失敗を公表して改善すれば、次へのステップになりますよね。
それにはミスを報告しやすい環境が必要だと思います。
本書では、これを「進化」と位置付けています。
どうすればこの進化を更なるものにできるのか、深く考えさせられる一冊でした。
失敗がいけないことではなく、失敗を次に生かさないことがいけないことだと教わった気がします。
まずは、ミスを批判するのではなく、問題を解決するための過程と捉える意識が必要なのだと思います。
記事内では、各章の一部分だけをピックアップして書いてきましたが、当然この記事内では伝えきれないことのほうが多くあります。
失敗を無駄にしたくない人や、自分に嘘をつくたくないと思う人は、ぜひ一度読んで見てください。
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